
2009年経営環境とIT新潮流
1.概括:
激動期を乗り切るITの役割は大きく、持続的な成長に向け戦略視点でIT構築が求められ、選択的投資が重要となる。
米国発の金融危機が世界に波及し、実体経済に大きな影響を与えている。自動車メーカーやエレクトロニクスメーカーなどを筆頭に、多くの企業の業績が急速に悪化している。厳しい経営環境の中で、生産調整に留まらず、新規投資の凍結や取りやめに動く企業が相次いでいる。IT投資も例外ではない。
従来、ITは企業活動の基盤、競争力を創出する先導役を果たし、IT投資を効果的に行ってきた企業は業績も好調だった。しかしそうした企業でも、IT投資予算の執行停止や新規プロジェクトを白紙に戻すケースも出てきている。
こうした中で、企業が持続的な成長に向けたステップを確実なものにしていくには、IT投資を戦略的な視点から継続的に行っていく必要がある。運用コストを削減し、案件に優先順位を付け、新しい技術を見据えながら、メリハリの利いたIT投資を行うことが大切だ。
2.5つのトレンド:
激動期を乗り切り、成長に向かうためのITという観点から、ここでは5つのITトレンド
2−1:クラウドコンピューティングの経営効率化,企業価値向上のためのエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)
2−2:統合基幹業務システム(ERP)パッケージの活用
2−3:ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)
2−4:積極的な攻めの経営を実現するためのモバイルコンピューティング
2−5:複雑化、巧妙化するインターネット上の脅威から企業を守るための情報セキュリティー について概要を紹介する。
2−1クラウドコンピューティング:コンピューター資源ネット経由で利用
クラウドコンピューティングでは、企業ユーザーはネットワークの向こうにあるデータセンターに集約されたコンピューター資源を必要に応じて利用する。
それによってユーザーは、コンピューター資源の調達や運用に関する手間とコストから解放され、全てネット経由で必要な機能を利用できる。そして、ウェブブラウザーさえあれば使えるので、パソコンだけでなく、さまざまなモバイル機器からでも簡単にアクセスできる。
クラウドコンピューティングが注目される背景には、津語の3つの流れがある。
一つ目は、運用管理コスト削減のためサーバーを統合して、データと処理を集中させる動きが加速していることだ。
二つ目は、その集中処理のために、サーバーやストレージのデータセンターへの集約が進んでいること。データセンターではスケールメリットが効くため、企業内の小規模なデータセンターよりは、専門業者が運営する大規模なデータセンターの委託する方がコスト面では有利だ。
三つ目は、コア業務以外は可能な限り、アウトソーシングする動きが続いていることだ。
こうした流れから、クラウドコンピューティングの概念は、中長期的にみて有効性をもっている。
クラウドコンピューティング3つのサービス:
クラウドコンピューティングは、大きく分けて@業務アプリケーション A認証や課金システム、開発環境などの共通基盤 Bインフラ −の3つのサービスからなるプラットフォームを提供する。
業務アプリケーションはネット経由でのソフト提供方式「SaaS(サース)」として既に提供され始めており、顧客管理システム(CRM)やメールシステム、グループウェアなどさまざまなアプリケーションが利用できる。
また、共通基盤は「PaaS(パース=プラットフォーム・アズ・サービス)」とも呼ばれ、現時点ではサービスを動かすための基盤システムとして提供されるケースが多い。されにインフラは「HaaS(ハース=ハードウェア・アズ・ア・サービス)」として、サーバーやストレージなどのハードウェア資源を仮想化したインフラとして提供するサービスもでてきている。従来のホスティングサービスと異なり、仮想化技術をフルに活用したインフラを貸し出す点が特徴だ。
このように、クラウドコンピューティングはシステムのメンテナンスコストを低減することで、新たなIT戦略への予算投入を可能にする。今後大きく発展する可能性を持っており、企業はその動きに注目し、企業内クラウドの構築や外部クラウドサー日雄の湯労などを必要に応じて検討していく必要がある。
2−2ERPパッケージ:企業価値向上を加速 競争力の強化に効果
どのような経営環境にあっても、企業は経営効率化とコア業務への集中を図り、企業価値を向上させることが求められる。「J-SOX」とも呼ばれる内部統制制度への対応を足がかりとしたERMへの取り組みの核となるERPパッケージを紹介する。
リスク管理の手法
上場企業とそのグループ会社を対象とした財務報告にかかわる内部統制制度が08年4月に施行され、現在、3月決算企業は評価と1回目の内部統制報告書作成の最終段階に入っている。内部統制の整備にはどの企業も多額の費用をかけており、2年目以降の運用でもそれほどコストが下がるとは考え難い。
つまり、単純に法制度に対応するだけではコストがかさむばかりと言うことになる。内部統制整備をステップにして、さらなる次の一歩を目指す「After J-SOX対応」が企業側には不可欠となる。逆風の中にあっても、経営効率向上とコスト削減によって競争力を強化し、企業価値の向上を図らなければならない。
企業は法制度対応が終わる09年度以降、このフレームワークに基づいた統合リスクマネジメントの考え方を取り入れて経営改革を進めていくことになる。整備した内部統制の基盤を効果的に活用する意味でも、このアプローチは重要だ。
業務連携緊密に
内部統制の整備によって、業務の見える化と会計リスクが共有されれば、グループ内企業の部分的な連携が行えるようになる。それを基盤に、グループ全体で野業務の標準化・共通化がなされると、さらに内部統制の範囲が拡大し、グループ内企業の連携も寄り緊密なものとなる。ERMの観点から、シームレスな業務連携とシェアード化による連結経営が実現するわけだ。
連結経営とは、グループ全体の経営状況をタイムリーに精度の高い情報として把握し、グループとして戦略的で効率的な活動を展開することを目指す。その規模を拡大し、グローバルレベルの連結経営を実現することにより、企業価値の向上を図る必要がある。
連結経営を支える
連結経営を実現する上で、大きな効果を発揮するITソリューションがERPパッケージだ。ERPパッケージは一般の業務パッケージと異なり、データベースが一つしかない。それがグループにおける連結経営を実現する上で、統一的な基盤として大きな役割を果たす。
最近のERPパッケージは、システムをサービスとして部品化し、変更したいときには関係する部品だけを抜き差しすることで対応力を高める「サービス志向アーキテクチャー(SOA)の考え方を取り入れている。そのため、従来必要であった大がかりな追加開発(アドオン)の必要がなくなり,導入しやすくなっている。ERPパッケージは経営効率向上に大きな役割を果たすソリューションである。
2−3BPO:外部の専門知識・高度なノウハウを活用
企業が全業務を自社で行おうとすると高コスト体質になり、スピードも失い、競争力を喪失する。そのため、差別化の源泉であるコア業務にフォーカスし、それ以外の業務はアウトソーシングの必要が出てくる。そのために大きな役割を果たすのがBPOである。
コア業務に注力
BPOは自社の業務プロセスの一部を情報システムの運用とともに外部の企業にアウトソーシングするものだ。対象は総務・経理・人事業務における非コア業務を中心に、保険会社の保険契約や代金回収など幅広い業務へと広がっている。
近年、欧米では競争力の強化を目的に、BPOを積極的に利用する企業が増加している。それに対して、国内ではコスト削減や合理化・効率化に主眼を置いて、グループ内の関連企業へのアウトソーシングが多い。
経済産業省調べでは、08年2月段階では東証一部上場企業のうち、BPOを利用しているのは46%。」利用している企業のうち、総務部門では約60%がオフィスサービス業務、経営部門では約20%が支払業務、決算関連業務、人事部門では訳0%が給与・賞与計算業務、福利厚生業務などを積極的にアウトソーシングしている。
高付加価値型も
一方で、コスト削減、合理化・効率化に加えて、専門的な知識の活用や業務プロセスの改善など競争力向上のための高付加価値型のBPOを目指して、サービスを提供する企業も出てきている。
その代表例がインテグレーターと銀行、信販会社の三社の機能を融合させた代金回収サービスだ。消費者がある会社から商品を買った場合、代金の支払には電子決済口座振替、郵便振替、銀行振り込み、コンビニ決済などさまざまな手段がある。このサービスはこうした全ての代金回収チャネルをカバーしながら、請求書の作成、送付、代金の受領、売掛金データの消しこみまでの一連の業務を行う。銀行が自社のサービスメニューとして提供するが、実際の運用はインテグレーターが行っている。
こうしたサービスはコスト削減に留まらず、今までの銀行にないプロセスで顧客に新しい価値を提供する。ITや事務処理に関する豊富なノウハウと経験を持つITベンダーによるBPOビジネスは、今後、盛んになると見られ、企業は非コア業務のアウトソーシングだけでなく、競争力強化のためのBPOにも注目していく必要がある。
2−4モバイルコンピューティング:攻めの経営を加速する新世代端末が続々登場
機動的な社外業務の基盤となるモバイルコンピューティングの新しい動きを見てみよう。
安心な利用環境
08年、携帯電話会社から通信設備を借り、独自ブランドサービスを行う事業者(MVMO)が眼がクラスの高速モバイル接続サービスを相次いで開始した。これらの企業はセキュリティサービスも併せて提供することから、モバイルパソコンを今まで以上に安心して社外で利用できる環境が整った。
又、超小型パソコン(UMPC)を呼ばれる安価なモバイルパソコンが続々登場していることもあって、端末を社外に持ち出して、さまざまな業務に使うケースが増えている。
機動力の強化に
独自の進化を遂げてきた高機能携帯電話と、メールやオフィス文書の閲覧が中心だったスマートフォンを融合させた新世代の端末が登場してきた。これはタッチパネルにいる操作性、オープンプラットフォームでのアプリケーション開発、ネットとの連携重視といった特注を備えている。
こうした中、通信事業者とシステムインテグレーターが協力して、スマートフォン導入を手がける体制も強化されていることから、ビジネス用モバイル機器の使い方が大きく変わる可能性がある。持続的な成長を図るには、日々の業務の生産性を高める必要がある。機動力が強化された新たなモバイルコンピューティングの活用は、生産性向上に役立つ攻めのIT投資として効果的だ。
2−5情報セキュリティ:重層的な対策で守りを固める
見えない「脅威」
一方、モバイル化の進展によって、企業ネットワークの境界があいまになってきている。そのため一端ネットワーク内への不正侵入を許すと外部との接点であるエンドポイントがネット上の脅威を広げるパイプ役となりやすい。
例えば昨年7月、大手ECサイトが65万件余りの顧客情報を不正に閲覧された可能性があると発表した。過去最大の不正閲覧数であり、ほかにも同様の事件が起きているが、いずれも「SQLインジェクション」という不正アクセス攻撃が原因だ。
セキュリティ企業のリポートによれば、08年中に検出されたウィルスは約150万種類、たった一年で過去21年分の2倍に相当し。今後も増加傾向は続くと言う。
多層的対策必要
これらの攻撃では従来と異なる特別のやり方で行われているわけではない。基本的には、ID/パスワード破りやソフトウェアの脆弱性を突くなど、単純なものだ。これを防ぐには、ユーザーの注意を喚起しながら、情報セキュリティの対策を多層的に組み合わせて実施することが基本となる。ピンポイントでの対策ではなく、企業ネットワーク全体を対象として、セキュリティレベルの向上とレベルの統一、運用負荷軽減と利便性向上を図っていくわけだ。
そのために、セキュリティ診断やセキュリティ監査などを行い、弱点をなくしていく。併せて、浸入検知システム(IDS)や浸入防御システム(IPS)やウェブアプリケーションの脆弱性への攻撃を防御するウェブアプリケーション・ファイアウォール(WAF),エンドポイント対策などで、奥の深い防御体制を敷く必要がある。
激動期を乗り切るITの役割は大きく、持続的な成長に向け戦略視点でIT構築が求められ、選択的投資が重要となる。